ビジュアルワークショップ5

心臓の拡張機能を診る

山本 一博(鳥取大学医学部病態情報内科)
吉田 清 (心臓病センター榊原病院)
心室機能は、動脈への血液の駆出を主に規定する収縮機能と、心房からの血液の流入を主に規定する拡張機能に大きく分けられる。流入血液量に相当する血液量しか心室は駆出できず、収縮機能と拡張機能は循環動態を保持する上で車の両輪の役割を担っている。
左室駆出率には種々の限界があるものの、臨床的に求められる左室収縮機能評価を可能としている。その一方で、左室拡張機能を評価する指標が確立していない。従来は、ドプラ法で記録する左室流入血流速波形のE/Aが拡張機能の指標として用いられてきたが、E/Aは左室駆出率が低下している症例では左房圧の指標であり、拡張機能を直接的に評価する指標ではない。左室駆出率が保持されている症例では、左房圧とも相関せず、左室弛緩のゴールドスタンダードである時定数とも相関しない。つまりE/Aが低下していることは、左室弛緩障害と診断する根拠にもならない。また、近年は左心不全患者の重症度を規定する因子のひとつとして右室機能や心房機能にも注目が集まっているが、右室や心房の拡張機能評価に関する研究は、さらに遅れをとっている。
超音波検査、CT、MRI、核医学検査など種々の画像診断法が進歩を続ける中で、循環器領域で取り残されている心臓拡張機能評価の確立にどこまで迫ることができているのか、本ワークショップにおいて現状を認識し、これから解決すべき問題を整理することを目指したい。