シンポジウム9
睡眠時呼吸障害に対する持続陽圧呼吸療法の功罪
百村 伸一(自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科)
伊藤 宏 (秋田大学大学院医学系研究科 循環器内科学・呼吸器内科学)
近年、循環器疾患には高頻度に睡眠呼吸障害(SDB)を合併することが明らかになり、さらにSDBに対する持続陽圧呼吸療法が心血管事故の抑制につながることを示す多くの臨床研究結果が報告されている。SDBのなかでも閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に対してはCPAPが最も有効であるが、心血管イベント抑制効果については前向き試験の報告はあるものの、大規模の無作為試験の結果は得られていない。またCPAPの効果を大きく左右するアドヒ―レンスを確保できないまま漫然と使用されている場合も多い。さらにCPAPが良好に使用できていてもOSAの原因である生活習慣の改善への取り組みがおろそかになっている場合もある。一方、心不全に合併する中枢性睡眠時無呼吸に対する陽圧呼吸療法については、約半数においてCPAPが有効であるにもかかわらず高価なASVが最初から用いられることも多く、さらに心不全患者に対する薬物治療の最適化が行われないまま安易にASVが用いられているケースもないとは言えない。またSDBを合併する心不全患者においては過度の陽圧が必ずしも血行動態の改善をもたらすとは限らない。SDBの重症度にかかわらずASVが心不全を改善するかどうかについてもさらに明らかにする必要がある。本シンポジウムでは睡眠呼吸障害に対する持続陽圧呼吸療法の適正使用を念頭においてこの治療法の持つ功と罪を明らかにしたい。