コントロバーシー1
虚血性心臓病におけるスタチン治療においてLDL-C値測定はもはや不要か?
代田 浩之(順天堂大学大学院 医学研究科 循環器内科学)
多くの疫学調査によりLDL-Cの増加が心血管事故のリスクである事が示され、その後に行われたスタチンの大規模介入試験によって心血管事故が減少する事が証明されて来た。スタチンの介入試験を用いたいくつかのmeta-regression解析ではLDL-C低下に相関して心血管事故を減少させることが示唆され、LDL-Cの The lower, the better理論が提唱されて来た。最近の大規模臨床試験ではストロング・スタチンの最大用量を使用し、LDL-Cが平均で70mg/dl まで低下していたことから、欧米のガイドラインではLDL-Cの達成目標を70mg/dlと設定してきた。しかしながら実際にはLDL-C の達成目標値を決定する目的で行われた前向き臨床試験は存在しない。そのためACC/AHAではLDL-Cの目標値を設定せず、リスクの高さにより高容量か中等容量のスタチンを選択するガイドラインを発表した。このガイドラインでは治療目標値としてのLDL—Cの測定を否定している。これまでのLDL-C値を中心とした治療戦略とは大きく異なるアプローチである。一方ヨーロッパおよび我が国の動脈硬化学会では、観察研究を含めたこれまでのエビデンスと、実践的な立場からこれまでのアプローチを継続するステートメントを発表している。
論点は次の点に集約される。1)LDL-C を指標にスタチン治療を開始し、増量するのか、2)LDL-C に関係なく、スタチン治療を開始継続するのかという点、いわゆる Target to Treat か Fire and Forget 治療かである。このコントロバーシーでは双方の立場から、これまでの臨床試験を総括し、LDL-Cか、スタチン治療かをお二人の演者に概説していただき、日本人の治療の在り方を議論していきたい。