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動脈硬化のメカニズムが解明されるとともに、多くバイオマーカーが日常診療で活用されている。特に、LDL-コレステロール(LDL-C)のバイオマーカーとしての意義は格段に大きい。スタチンの大規模臨床試験は例外なく、the lower, the betterを実証している。最近では、スタチンとエゼチミブ、さらにはPCSK9阻害薬との併用によってLDL-Cを60％以上低下させることも可能になっている。それとともに、LDL-Cに依存しないメカニズムに対する治療戦略も益々重要になっている。特に糖尿病やメタボリックシンドロームなどに合併する動脈硬化の病態やリスクを反映する脂質関係の生化学マーカー、糖尿病、CKD、高齢者に高頻度に見られる血管石灰化、あるいは、血管障害の基本的な病態である血管内皮機能や慢性炎症のバイオマーカーなどが基礎研究あるいは臨床研究、疫学研究によって明らかにされつつある。本シンポジウムでは、「残余リスク減少のための新たなバイオマーカー探し」というテーマでLDL-C以外のリスクについて討論したい。残余リスクの解明とそれに基づく新たな予防と治療の戦略に関する最新の研究成果を幅広く募集する。本シンポジウムでの議論が、新たな予防法と治療法の開発に貢献できることを願っている。

血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)を初めとする侵襲的イメージングの進歩は、冠動脈の病理を間近に観察することを可能にした。冠動脈イメージングを用いた評価は、経皮的冠動脈治療の際に薬剤溶出性ステントなどの侵襲的治療法の急性期並びに中長期の成績を占ったり、あるいは微細な病理学的変化をとらえたりする上で重要な役割を果たしてきた。また、プラークの定量的定性的評価は、薬物の効果を判定するサロゲートマーカーとして用いられることも多くなってきた。このような冠動脈イメージングの評価の多くは現在独立したコアラボで行われており、多くの他施設共同大規模臨床試験における重要な一要素になっている。非常に繊細な分析を必要とする冠動脈イメージング解析においては、我が国の研究者がこれまでも海外で数多く活躍しており、さらに我が国のラボからも世界に発信出来るデータが生まれてきている。当セッションでは、冠動脈イメージングが果たして来た役割を振り返り、今後の大規模臨床試験においてどのような方向性を持つのかについて広くディスカッションしたいと考えている。

近年、人口構成の高齢化により、医療の多くの分野で高齢患者が増加しています。とくに外科系領域においては、手術手技の進歩により、高齢患者であっても手術が可能になり、その一方で、動脈硬化性疾患の発生頻度は、年齢とともに増加しますので、外科手術を受ける患者の心血管系併存症が増加していることはまったく議論の余地がありません。高齢化とともに心房細動をはじめとする頻脈性不整脈や心筋疾患を基礎とする致死的不整脈の発生も外科手術の際には、問題となってきます。これらに対応するため、日本を始め欧米の各学会はガイドラインを新しく改訂しています。
現在公開されている周術期管理のための循環器疾患管理ガイドラインでは、循環器内科医がどのように患者をケアすべきかを指示していますが、そのような患者を最初に診療する外科医がどうすべきかは、提示していません。周術期管理ガイドラインを普及させ、非心臓手術を成功させるためには評価手順にのっとった評価と外科医、麻酔医、コメディカル、循環器医の密接な連絡とコミュニケーションを構築するシステムが必要です。
どのような患者でリスクが高く、どのような症例が安全に手術できるかを適切に示し、一方で、虚血の発生リスク、心不全の発生リスク、不整脈の発生リスクなど重症リスクとなりうる循環器疾患を合併した患者が非心臓手術を受ける場合、手術侵襲にどう対応をするか、抗凝固療法や抗血小板薬、抗不整脈薬、Ca拮抗薬など継続投与されている循環器薬の中止継続をどうするかなど、安全に手術が施行されるよう、限られた医療資源の中で援助することは、循環器内科のもっとも重要な課題のひとつです。
この高齢化の進む現代と未来において、安全に非心臓手術が行われるよう、限られた医療資源の中で有効なシステムを作り上げるには、患者やその家族をも含め、医師のみならず看護師、工学技師、検査技師、作業療法士、ソーシャルケースワーカーなど周術期に関係する多くの人々によるチーム医療を構築することが必須であり、手術に関係する病院内の全部門が理解するシステムであることが成功のキーとなるでしょう。このような点を本シンポジウムでは議論して頂きたいと存じます。

カテーテル・デバイスや技術の進歩とともに、急性冠症候群の治療成績や救命率は格段に向上したが、急性心筋梗塞患者の数自体はそれほど減少していない。むしろ近年では心筋梗塞発症の低年齢化も見られ、いわゆる働き盛りの若い世代のQOLを奪う疾病としては、心血管疾患は癌と並び依然として重要な位置を占めている。そこで1次・2次予防が非常に重要な課題になって来るが、冠動脈疾患の各危険因子の診断や治療薬剤・その治療成績には、近年格段の進歩が見られる。そこで本セッションでは、各種危険因子に対する診断法と Optimal Medical Therapy (OMT) としての内科的な予防介入の最新情報について、各専門の先生方からご発表いただく。

我が国の臨床研究は国際的にもみても高い水準にあるといえないが、厚生労働省の臨床研究の新しい倫理指針が出され、医師主導型臨床研究に関して監査、モニタリング等が必要となり、往来よりも厳格な運用方法が課せられている。従って臨床研究、特に多施設介入研究にはこれまで以上に人材や資金が必要となり、エビデンスに足る正確なデータを出そうとするほど、研究者にとって臨床試験実施のハードルは高くなっている。
介入研究ではなく、DPCや電子カルテ情報などICTデータを用いた登録研究も学会主導で行われ始めている。疾患名のバリデーション等の課題も多いが、費用対効果を考慮すれば、今後期待できる方法である。一方従来単施設でシングルアームの薬剤介入研究も学会発表や日本語の雑誌に多く投稿されており、実際、多施設研究や大規模研究の前段階のデータとして有用な研究も多い。今後、このような小規模研究や実地医家が行う臨床研究を現在の厚生労働省のガイドラインにどう準拠させて臨床研究の発展に生かせていくかも大きな課題である。
本シンポジウムでは本邦において、エビデンスの構築に向けて質の高い心臓病臨床研究を達成するために、現在最先端で取り組んでおられる研究者にその現状と将来に向けての課題について発表頂きたい。

CCU(Coronary Care Unit)が発足した1960年代前半はCCUは急性心筋梗塞の重症不整脈の管理が主体で、突然発症する心室細動の除細動が主目的であった。その後、急性心筋梗塞の治療は再灌流療法の導入などにより急速に進歩し、急性心筋梗塞の死亡率はこの40年間で30%台から5%程度となった。一方で、人口の高齢化に伴いCCUに入室する患者も大きく変わり、高齢者の心不全が多くなり、病態も多様化し、いわゆる全身管理が必要とされるようになった。すなわち、CCUがCardiac (Intensive) Care Unitとして機能しなければならなくなり、循環器科医も多面的で高度の救急・集中治療の知識・技術が必要とされるようになった。たとえば、蘇生後管理、呼吸管理、血液浄化、輸液管理、栄養管理、敗血症、DIC、鎮痛・不穏・せん妄、などは循環器科医の守備範囲になってきている。一方で、日本循環器学会の専門医カリキュラムにはこれらの項目はなく、循環器領域でこれらに精通した医師も少ない。多くの循環器科医は見よう見まねで身につけているのが現状ではないだろうか。そこで、本シンポジウムは、複雑で多様化した重症循環器疾患患者を管理できる循環器科医を育てるためにどうすれば良いかを討論する場としたい。施設での取り組みやアイデアを紹介していただき、CCUにおける集中治療トレーニング確立に向けた叩き台としたい。

虚血性心疾患・脳卒中などの循環器疾患、およびその危険因子である肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病の増加は、本邦はもとよりアジア諸国においても国民の健康を脅かす深刻な問題となっています。しかし、本邦を含めたアジアの予防医学に関わる研究は、欧米のそれに比べ大きく立ち遅れており、生活習慣病の有病率や罹患率にも十分に調査がなされているとは言えず、さらには、その原因となる生活習慣や遺伝的要因などについても充分には解明されていません。同時に、循環器疾患の診療に携わる医療従事者の多くは、虚血性心疾患の急性期治療や心不全への先進的な治療法に興味を示す傾向にあり、その大元となる予防医学に取り組もうとする意欲は甚だ希薄であると感じています。
しかし、世界一の超高齢化社会である日本で培われた予防医学のノウハウや研究成果が、世界に先んじたエビデンスとして発信される必要性は極めて高く、アジア諸国での疾病予防や健康寿命の延伸のためにも、その果たすべき役割は小さくありません。本シンポジウムでは、アジア地域の生活習慣病などの危険因子が循環器疾患の発症に及ぼす最新のエビデンスを取り上げるとともに、有効な予防策を提言することで、アジア地域の健康問題の解決への糸口を探りたいと考えています。また、ともすれば治療医学に偏向しがちな臨床家が、予防医学に目を向ける端緒となるシンポジウムにできればと考えています。

Systolic Blood Pressure Intervention Trial（SPRINT）は収縮期血圧の降圧目標について120mmHg未満群（厳格降圧群）と140mmHg未満群（標準降圧群）での心血管イベント抑制効果を比較したもので、厳格降圧の有用性が示された研究である。到達血圧の平均は、121.5mmHgと134.6mmHgで、降圧治療はthe lower, the betterと言われているもののにわかには信じがたいほどの結果であり今後のガイドラインへの影響は大きいと思われる。しかしながら、糖尿病合併高血圧患者を対象とした同様の研究であるACCORDでは厳格降圧の有用性が示されなかったのに何故SPRINTではこれだけの違いを生み出したのか、家庭血圧を優先する日本のガイドライでAutomated Office Blood Pressure MeasurementというSPRINTでの血圧測定法はどのような意味を持つのか、なぜ厳格降圧群で脳卒中発症の抑制効果が見られなかったのか、厳格降圧による有害事象は実臨床で防ぐことが可能なものかなどいくつもの疑問や課題がある。本企画においては、これらの疑問や課題、さらには日本で実施されている降圧目標の群間比較試験も踏まえ、今後実施すべき日本版SPRINTの可能性まで議論したい。

日本は世界中で一番安全な国と日本人の誰もが考えていた。極めてhomogenousな社会・民族で、安心・安全に日常生活が経過している。私たちの生命を脅かすものとして短期的には、飢餓・怪我・感染・災害があり、長期的には放射線や紫外線、酸化等のプロセスがあるが、過去22年で4回も大きな地震に見舞われた。震災後には心血管疾患が多発するため、日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同で作成したガイドライン「災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン」は大いに役立ったと思われる。災害発生時の栄養管理でまず注意喚起されることは、1)良質な食事、2)体重の維持、3)感染症予防、4)血栓予防として水分を1日1L以上を確保することなどがあげられる。地震も震源地が内陸か沖合、直下型か非直下型で発生するかによって想定される規模も異なってくる。災害後も、災害による長期避難生活と生活習慣病の関連は特に重要視する必要がある。私たちが経験した3つの地震災害から学んだことをまとめて、日本の心臓病医・循環器医が今後より効果的な活動の方向性についてディスカッションしたい。

EBM(Evidenced Based Medicine)が日々の臨床に定着するようになって久しい。個々の患者の臨床データを作成し、その結果から現時点でのトレンドを知り、その対策を作り上げることは臨床レベルを高める上でも重要である。しかし、我が国においては一部を除きこのような登録研究は最近まであまり行われておらず、欧米から報告された多数例を登録した研究を参考にすることが多かった。欧米人と比べた場合わが国のACS患者では食生活をはじめとするライフスタイルや薬剤に対する反応の違い、さらには医療体制自体が異なることも多い。このため、単にglobalizationという名のもとに諸外国と同一のプロトコールで登録した成績をそのままわが国の臨床に反映させることには問題もある。このようなことを踏まえ、30年以上の地域のAMI集計・登録を行ってきた東京CCUネットワークやMIYAGI AMIレジストリー、そしてOACISなどにより多くのデータが集積・報告されてきた。登録研究の重要性を示す報告が示される中で、他の地域でもその地域に応じたデータの蓄積が行われ疾病の発症率や治療成績の経年的推移など我が国全体として、また各地域による差異が明らかになることが求められる。そしてさらに本邦の全体を視野に入れた登録も進められつつある。本セッションではこのような点を踏まえた日本におけるACS患者の登録研究の現状と今後の展望について討論したい。

近年、様々な新しいデバイスの開発により、大動脈弁狭窄や心房中隔欠損など器質的心疾患に対するカテーテル治療の臨床応用が進んでいる。僧帽弁疾患においては、僧帽弁狭窄に対するイノウエバルーンを用いた経皮的僧帽交連切開術（PTMC）がカテーテル治療の進歩に大きく貢献し、現在では僧帽弁狭窄の標準的治療選択肢のひとつとなっている。最近、僧帽弁逆流に対しても、様々なカテーテル治療法が開発されている。中でも、Mitra clip^®は海外で最も普及した僧帽弁逆流に対するカテーテル治療法であり、本邦でもようやく治験が始まった。また、それ以外にもいくつかの僧帽弁逆流に対する新しいカテーテルデバイス治療が海外から報告されている。さらに3次元経食道心エコーや心腔内超音波カテーテルなどイメージング技術の進歩は、こうしたカテーテルデバイス治療の進歩に大きく貢献している。本セッションでは、僧帽弁狭窄、僧帽弁逆流を問わず、僧帽弁疾患カテーテル治療におけるイメージングやデバイス治療、治療戦略に関する発表を広く募集する。本邦における僧帽弁に対するカテーテル治療の進歩に貢献できるよう、活発な議論を期待している。

近年、心血管疾患の治療に関しては目覚ましい進歩があるが、予防については大きなブレークスルーはなされていない。その理由として人間集団の多様性がある。実験動物と異なり人間の遺伝子や生活習慣には大きなばらつきがある。特に非患者集団の場合、“疾患”という影響力の大きい共通項がないため一般化した予防方針を決めるのは容易ではない。現在、個人の遺伝子型やその機能、代謝状態などを反映させた先制医療が提唱されており、今後発症予測の精度が飛躍的に高まる可能性がある。しかし“ハイリスク者”をどのように治療すべきか、どのような生活習慣の改善が必要なのかなどリアルワールドでの展開はあまり考えられておらず、また高度な個別化医療を万人が享受できる社会経済体制をどうやって築くのかという問題もある。近年、多様なヒトの集団から生命情報を抽出し、疾患の病態解明や発症予測評価を確立する方法として、長期観察研究（コホート研究）が注目されている。わが国には古くから続いている優れたコホート研究が多くあるが、それぞれ特徴的な長所を有している。そして長期間の地道な積み重ねの上にゲノム研究や新しいバイオマーカー探索を取り入れながら現在に至っている。本企画では様々な特徴をもったわが国の心血管疾患をアウトカムとしたコホート研究の特徴と最新の研究成果を紹介したい。

急速な進歩を遂げる循環器内科の専門医になりたいと思う志高き若手医師をまず応援したいと思う。そして、将来の循環器内科診療をより質の高いものにする担い手となってほしいと願う。循環器内科の守備範囲は広いばかりでなく、近年数多くのクリニカルエビデンスと高度先進医療がその診療の形を大きく変貌させている。そのため、広範でかつ深い知識、と同時に高い診療技術が求められている。現在も、心不全、虚血性心疾患、不整脈の治療に用いる侵襲的治療技術は進歩している。その進歩にキャッチアップしながら、高い安全性を確保し、身につけることが将来にわたって必要である。
そして、このように進歩する循環器内科学の基本がどれほど身についているかが、これからの医師としての成長のスピードを規定していることも指摘しておきたい。どのような患者が目の前にいても、内科学的な思想に立脚した治療方針を決定づけるための基本である。若手にとって、この基本が身についていないという気持ちが少しでもあれば、それは将来にわたる成長の阻害因子となってしまう。残念なことに、循環器内科が進歩するにつれ、このような基本を学ぶ機会や時間が少なくなった。きっと、若手医師もそのように感じていることだろう。本セミナーでは、そのような循環器内科の基本について、超達人から講義とメッセージを頂こうと思う。ぜひ、循環器内科習得のための機会に利用してもらいたい。

日常診療で得られる膨大な量の医療情報やゲノム情報などの、いわゆる「ビッグデータ」を、国民の健康や寿命の改善のために活用することが期待されている。ビッグデータ活用には、コンピューターや大容量データの高速処理システムの急速な進化やシークエンサーなどの遺伝子解析機器の性能向上など、膨大な情報をICT化するための基盤整備も重要な要件である。米国において国立衛生研究所（National Institutes of Health、NIH）は、「Big Data to knowledge（ビッグデータからの知識の生成）」という取り組みを進めている。ビッグデータは循環器疾患におけるイベント予測だけでなく、医療費の適正化にも重要である。我国において循環器疾患による医療費は，昭和55年（1980年）以来，総医療費の23％前後を占めている。また、循環器疾患による医療費は、平成9年度、約5兆460億円に達した。ビックデータを活用して循環器疾患診療にどのような知識の生成をもたらすことができるか、その現状と課題について議論する。

座長の言葉はいる

大学や専門病院で循環器を学び、海外留学でキャリアを積んだ後に、帰国後国内でさらにキャリア形成を進めていった循環器専門医は数多くいらっしゃいますが、最近は若い人たちが診療実績を積み重ねることに集中するあまり、海外に出て国内では得難い経験をしながらキャリア形成に生かそうという人が少なくなった傾向があります。
治験と臨床研究はグローバリゼーションが急速に進んでいますので、留学を契機にいい仲間を作ることは大切なように思います。さらに、今後は診療領域もグローバル化が進むことになり、“世界”で働ける若い人材が育っていくことは極めて重要です。しかしながら、昨今は自分に合った施設を見つけることから経済的ハードルなど含めて、留学そのものがなかなか難しくなってきている状況があります。
ましてや、自分自身がグラントを獲得し専門施設で教官・指導者・研究主任者としてのポジションを維持していくことは相当大変なことになります。
本セッションでは、このようなハードルを乗り越えて海外で指導者として活躍されている先生方をお招きして、海外での臨床・研究生活におけるご苦労や、日本にいる若者が今後のキャリア形成を進めるうえでどのようにしていけばよいかなど、具体的なお話を伺うセッションを企画しました。将来海外留学を考えている意欲ある多数の先生方の参加を期待します。

現在日本の医師総数は約30万人、うち女性医師は約6万人で全体の2割を占め、その割合は年々増加している。日本循環器学会でも女性医師比率は20-30歳代て2割と決して少なくないが、長時間勤務やオンコール・当直等不規則勤務の為、家庭と仕事との両立（＝ワークライフバランス：以下WLB）が困難になり離職せざるを得ないケースが多く、一旦離職すると、復職やキャリアアップの道が閉ざされ易い。この現状は循環器医を目指す医学生数の減少や常勤医数減少による勤務負担増加への影響が懸念される。同時に管理職側は、部下のWLBの調整を請け負う機会が必然的に増加するわけであるが、オンコールや急変対応など勤務負担度が高いことで知られる循環器診療においては尚更、WLBの調整は困難で喫緊の課題である。これは、女性の家庭と仕事の場合のみならず、急な疾病等で予期せぬWLBが必要となった男性医師の負担軽減にも同時に活かせる。重要な点は、性別や環境に捉われず循環器診療を継続する意志と能力があれば、誰にも開かれた門戸や機会が得られる診療環境の整備である。この環境の確保が学会・管理者側の不可欠な責務であり、この環境下で自由競争に任せ、各々が切磋琢磨していくような就業環境を目指すべきであろう。本企画では、循環器診療各領域の女性エキスパートから、誰もが循環器医として活躍する為に我々は何をすべきであるか、必要な環境整備への提言を行う。

大動脈弁狭窄症の増加が止まらない。高齢化による患者リスクの増加と合併疾患の複雑化は従来唯一の解決法とされた大動脈弁置換術の手術成績向上に立ちはだかる。医療の低侵襲化はこうした問題に対応する一つの解決方法で、冠動脈バイパス術に対して低侵襲な冠動脈インターベンション(PCI)が適応拡大して普及したことがそれを示している。しかし、外科医も低侵襲術式である心拍動下冠動脈バイパス術を確立してPCI困難証例に対応し、治療の選択肢を増やしてきた。同じく患者リスクが各種スコアで正確に把握できるようになった現在、全身的に重症かまたは心機能低下を来した大動脈弁狭窄症の手術成績向上が急務となってきている。折しも、開胸や人工心肺を使用しない経皮的大動脈弁置換術(TAVR) が欧米での普及を受けて、2013年に国内でも保険適応となった。今後、手術適応の大動脈弁狭窄症は全てTAVRの適応となっていくのか、またはPCIのように外科医が新たな低侵襲的手法または未だ模索中の方法で外科的大動脈弁置換術の適応限界を突破していくのかは心臓病を治療する専門医師であれば誰しもが知りたいところであろう。そのような観点からエビデンスに基づいて、独自の工夫も交えながら治療成績や費用対効果を考慮しつつ外科的大動脈弁狭窄症治療に当たっている施設の考え方と実際を報告していただき、本疾患の将来展望について討論を交えるセッションとしたい。

現在の循環器診療では専門分化が進んでいますが、現場の実際の患者さんではそうそうキレイに割り切れません。自分のところの外来や病棟を思い浮かべてみても、単なる心不全という方は少数で、現実には虚血性心疾患や不整脈疾患のマネージメントも並行して考えなくてはならないことがほとんどではないでしょうか。このセッションでは、そうした通り一辺倒のエビデンスでは割り切れない複合症例を募集し、そのマネージメントに関して幅広くディスカッションを行うことを目的としています。
ひとまず、「ACS と 心不全」「ACS と 不整脈」「不整脈 と 心不全」 という3つの枠を想定していますが、ここに当てはまらないような症例でも積極的に考慮いたします。珍しい例・難治例というよりは、たまに経験するけれどもいつも困るシナリオを提示していただければ幸いです。症例のプレゼンテーションは7-10分程度で、ディスカッションが15分程度です。
当日は、こうした複合症例どのように対応しているかに関して、「今わかっていること」「わかっていないこと」「どのようにすれば解決できるか」ということを数人のパネリストとともに討論させていただきたいと考えます。なお、昨年の学術集会のモーニングセッションではこうした治療方針に難渋した症例に関して短時間の討論をさせていただきましたが、本年はさらにエビデンスの解釈にも踏み込み、より深く各症例について議論したいと考えています。
エビデンスに基づく包括的な視点を持ち、最適な医療を提供する方法論を検討したいと考えております。積極的なご参加のほどよろしくお願いいたします。

エビデンスベーストメディスンが提唱されて久しいが、高度に細分化した医療の状況下で、一般開業医の先生方においては、日常業務に忙殺される中、常に最新の研究成果を学び・実践することは非常に難しいと思われます。このような中でエビデンスベーストメディスンを実践するために役立つものがガイドラインです。日本循環器学会ではこれまでに多くのガイドラインを公表しています。本セッションでは、一般開業医の先生方に役立つ、虚血性心疾患、不整脈、心不全など、代表的な循環器疾患のガイドラインを、ガイドライン作成に携わった先生より分かりやすく解説していただく予定です。本セッションに参加して、日々の日常臨床に役立てていただければ幸いです。

これから急速に迎える高齢化社会において疾病構造が大きく変化する。高齢者では癌による死亡が減少し、心血管系死亡が増加する。その中心となるのは、循環器診療実態調査で明らかなように心不全である。循環器病棟の多くのベッドが心不全患者に占有されてしまう前に、このパンデミックな心不全患者に対する診療体制を構築する必要がある。心不全は、発症する急性期から症状の安定期としての慢性期、そして再入院予防のための回復期から地域での医療という一連の診療体系の中で各時期での病院、あるいは医師をはじめとする多職種のチームがどのようにかかわれるかという役割分担を明確化する必要がある。心不全の発症が急性であること、そしてCommon Diseaseであることを考えれば、このような診療システムがそれぞれの地域で標準化され、そしてシームレスであることが望ましい。ただ、そのシステムが診療報酬の多寡で左右されることなく運用されるような経済的背景も必要であろう。
このシンポジウムでは、心不全診療の各段階で多職種によるチームを作り、心不全診療にあたっておられる先生方に、チームにおける工夫と問題点を明らかにしてもらい、循環器疾患における心不全診療管理システム構築の第一歩となるものにしたい。

1977年に始まった冠動脈形成術はイノベーションとともに進化してきた。その進化の過程でバルーン形成術に加え、金属ステント(BMS)が開発され、BMS問題点である再狭窄に対して薬剤溶出性金属ステント (DES)が開発された。1999年から使用可能となった第1世代DESは明らかに再狭窄を減少させたが、遅発性血栓症(ST)等の新たな問題点が出現した。新世代 DESでは生体適合性ポリマーが使用され、第 1世代DESに比しMIやSTのリスクを有意に減少させることが明らかとなった。しかし、金属ベースのステントである以上、冠動脈にステントは異物として生体内に遺残することに変わりはない。異物が冠動脈壁内に残存するため、留置箇所のNeoatherosclerosisやSTのリスクを克服することは困難と考えられる。さらに血管運動の消失など冠動脈壁への生理学的悪影響も遠隔期の問題となる可能性が懸念されている。ステント自体が自然吸収される、生体吸収性スキャフォールド (BRS)の概念は1980年代に始まるが、現在では欧州を中心に高分子化合物で構成されるBRSが実際に臨床で使用されている。エベロリムス溶出性PLA scaffold(Absorb BVS)はABSORB IIでXIENCEステントとの比較で同等の 1年の成績が示されたが、血栓症の懸念が払拭されていない。今年から本邦でも使用可能になるとみられているAbsorb BVSは OCTなどのイメージングガイド下での留置が血栓症のリスクをいかに抑えるかが重要なテーマとなろう。本セッションでは生体吸収型ステントの現状と可能性について、議論を深めたい。

弓部大動脈瘤の治療は、最近は外科手術の治療成績が良好のため全身状態が耐術可能であれば外科手術が第一選択です。ただ外科治療は開胸して、一時全身循環停止、心停止、低体温などの補助循環が必要で負担の大きい手術であるのはまちがいない。よって、高齢者、呼吸機能低下、担癌患者、再手術症例など全身状態が不良な場合にはステントグラフト治療、あるいは外科治療とステントグラフト併用のハイブリッド治療も治療選択のひとつです。本シンポジウムでは弓部大動脈瘤に対する治療法の選択、適応、手術成績、脳梗塞などの術後合併症の頻度、さらには合併症を予防する、治療向上のための工夫などを論じて頂きたい。

1998年以降、我が国でも心房細動のカテーテルアブレーションが開始され、現在では多くの症例に治療がなされるに至り、2015年には35,000例を上回る症例が全国で施行されている。
2005年以降、肺静脈電気的隔離術を中心とした発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション法がほぼ確立されるに至り、その臨床的意義も多くの施設で報告され、現在ではある程度確立された治療法であると捉えられるに至った。本邦においては、現在では肺静脈拡大電気的隔離術が主流となり、多くの施設で施行されるに至った。
一方、長期持続性心房細動に対するカテーテルアブレーション治療については、未だ全く確立されていないと言える。
初期には、持続性電位指標アブレーション、自律神経ガングリオンアブレーション、線状アブレーションによる心房コンパートメント化等が考案され、初期には単独で、最近では肺静脈電気的隔離術に加えて施行されるに至り、その有用性が次々と示されて来た。
現在では、上述の様な多くの方法による付加的アブレーション治療が、標準的肺静脈電気的隔離術に追加的に行われる形で治療が成されているが、2015年以降、この様な付加的アブレーションが全く無効のみならず、洞調律維持を悪化させるという報告もなされるに至り、その治療法については混沌としている状況である。
今回、『心房細動アブレーションのストラテジーと長期予後』と題して、本シンポジウムでは『不整脈専門医以外の不整脈門外漢』に対しても理解できる演題の応募を希望している。
発作性心房細動や持続性心房細動に対するアブレーションのストラテジーと長期予後に対する研究、或は長期持続性心房細動に対するアブレーション治療成功の背景因子の研究など、不整脈門外漢である循環器医専門医にも解りやすく説得力のある演題の応募を希望する次第である。

本邦にもSHD治療がようやく根付いた感があるが、いまだに他国と比べデバイスラグは著しく、希少疾患に対するデバイスもオフラベル使用を行わなければ患者へのよりよい治療ができない現実に直面している。TAVIは第二世代デバイスが今後導入予定となっているが、MitraClipは現在治験中である。左心耳閉鎖のためのWatchmanに関しては治験すら行えていないのが現状である。成人先天性心疾患の領域においてはようやくASD閉鎖デバイスの選択ができるようになり、VSDデバイスも今後導入方向に話が進むものと思われている。肺動脈弁へのMelodyはまだ道のりが遠く思われているが、少数例でも実臨床で必要な患者が存在するのが事実である。同様に希少デバイスとなる弁周囲逆流に対するPVL閉鎖術デバイスも実臨床において必要なことが判明している。このシンポジウムでは、国内・国外におけるSHD治療の最新の話題を提供していただき、今後の本邦SHDデバイス治療発展への布石としたい。

食塩感受性が高く摂取も多かった日本人では、従来より高血圧罹患率が高く、高血圧性臓器合併症、特に脳卒中が生命および生活予後に大きく関与していた。しかしながら生活習慣の欧米化や高齢者化社会を迎えることにより、虚血性心疾患や弁膜症、心房細動や心不全といった心血管疾患の増加が顕著となっている。このような心血管疾患に対しても発症・進展予防や治療に血圧管理が非常に重要であることは様々な疫学調査や介入試験により明らかである。本シンポジウムでは、冠動脈疾患、拡張機能障害、大動脈弁疾患、僧帽弁疾患、心房細動といった病態を取り上げて、各疾患の専門家がこれらの疾患リスクおよび病態をどのように管理するか、その中で血圧管理の重要性をどうとらえているかが明らかにしていきたいと考えています。

高齢化社会を迎え、総死亡の約3割をがんが占めており、がんの生涯罹患率も約5割と予測されている。しかし、年齢調整罹患率の増加傾向に対しがんによる死亡率は減少傾向であり、がん医療は確実に進歩している。実際、がんサバイバーは増加しつつあり、米国の統計では2011年に1,300万人以上、特に40歳から65歳の働き盛りが約4割を占めている。
がん医療の量的拡大と質的向上に伴い、チーム医療におけるCardiologistへの期待が高まっている。米国における乳がん患者の予後調査によれば、診断後9年目以降は心血管死亡ががん死亡を上回る。これまでにも抗がん剤の累積投与量や放射線治療の心臓照射量が問題とされてきたが、新たに開発された分子標的薬では相加的あるいは相乗的効果が課題となっている。
従って、CardiologistとOncologistの連携が期待されている。医療現場における個別の連携はもちろんのこと、学会や行政レベルにおける教育・診療・研究の連携が急務である。既に諸外国では、疾病動向やアウトカム評価に関する臨床疫学的研究、動物モデルや分子細胞学的評価に関する基礎研究、そして新たな予防・診断・治療技術の開発に関する臨床研究で学際的な取り組みが始まっている。
本シンポジウムでは、重要性を増すCardio-Oncologyの現状と課題、そして今後の展望について、この分野のパイオニアより概説をいただく。

慢性心不全とは、「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり、肺、体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた病態」と定義される。よって、心ポンプ機能低下が多臓器にどのような影響を与えるかという意味での連関は古くから考えられ、治療対象となってきた。しかし近年、心不全重症度や心ポンプ機能低下に対し、他臓器が直接的に影響する可能性が考えられ、心不全における多臓器連関はさらなる注目を集めるようになっている。最も古くから注目されている「心腎連関」以外にも、肝臓、消化管、脳、肺、脾、末梢筋、血液などと関係している可能性がある。どの臓器との連関が強いのか、心臓から臓器、臓器から心臓のどちらが強いのか、他臓器同士が連関してそれが心臓とつながっているのかなど、状況は多様化、複雑化している。本セッションでは、心不全における多臓器連関の現状での知見を整理し、これから診断治療の向上へつなげていくにはどのような疑問を解く必要があるのかについて議論したい。

左室心筋に占める虚血領域の割合は虚血性心疾患患者の予後を規定する最も重要な因子である。このことは様々な先進モダリティを用いた多くの臨床研究によって支持され、もはや疑念の余地は少ない。一方、日常診療において心筋虚血をどのように評価し、患者の予後改善を見据えた治療選択に生かすのかについては、十分なコンセンサスが形成されているとは言い難い。ここ数年普及したFFRにしても冠動脈狭窄病変をPCIの対象とするかどうかの分岐点として利用されてはいるが、その背景にある心筋虚血との関係については説得力ある臨床的洞察に乏しい。本シンポジウムでは、心臓・冠動脈カテーテル検査、心臓核医学、心臓CT・MRI、あるいは心エコー検査など日常的な情報手段やそれらの統合から、比較的簡便に心筋虚血の定性的・定量的指標を取得したり活用したりしている臨床成果の報告を受ける。それらを基盤に、我々の日常診療における臨床判断のブラッシュアップを目指したい。

我が国は超高齢社会を迎え国民の4人に1人が高齢者となるに至った。そして変性型の大動脈弁狭窄症の増加などもあり、高齢者心不全のパンデミックが予想されている。高齢者においては加齢を背景に心身の生理的予備能が少しずつ低下し、日常生活の活動性や自立度が低下して要支援・要介護状態に陥っていくのであるが、この過程をフレイル（Frailty）と呼ぶ。大動脈弁狭窄症に対して導入された経カテーテル大動脈弁植込み術（TAVI）において、術後の予後を規定するのがこのフレイルであることが最近示された。ここで用いられたフレイルは、Friedによって提唱されたフレイルの定義である、①体重減少、②疲労感、③筋力低下、④活動度の低下、⑤歩行速度の低下に認知機能障害を加えたものである。また、心臓外科手術も近年高齢者が主な対象となっていることから術前のフレイルの評価が非常に重要となっている。しかし、様々なフレイルの定義が存在するが、どの定義がそれぞれの疾患や治療に関する適応や予後と最も関係するかはいまだ明らかではない。一方、フレイルおよびその構成要素であるサルコペニアと血管老化や心不全との関係も想定されており、循環器疾患とフレイルには密接な関係があることが予想される。このシンポジウムでは“高齢者フレイルをどう評価し実臨床で生かすか”と題してこの重要な課題について最新の情報を集めて活発に議論したい。

重症心不全に対する有力な治療法である非侵襲的陽圧換気療法（NPPV）は、大別して急性期を中心とした肺うっ血改善目的を主体とした陽圧換気治療と、主には慢性期患者で見られるCheyne-Stokes呼吸（CSR）や慢性的肺うっ血、更には閉塞型睡眠呼吸障害（OSA）を改善する目的で行われるASVやCPAP治療がある。前者は多くの無作為化研究からもゆるぎない地位を築いている一方で後者に関しては、わが国で行われたSAVIOR-C研究では、一部の2次評価項目では有意な改善も認められたものの、主要評価項目では中立的結果であり、更には、昨年公表されたSERVE-HF研究では、平均31か月という長期のフォローアップの結果、慢性期のCSRに対してASV治療を行った群で予後の悪化が認められ、全世界に衝撃を与えた。こうした事実が示すのは、NPPVはその治療ターゲットを明確にして使用することが重要であること、心不全の時期や病態によって効果に差があることを十分認識する必要があること、差があるとすれば何を目安に治療を開始・継続し、また中止・変更するのかを明確にする必要があること、CSRを解除することを目的にすることは全て有害なのか患者・病態で異なるのかを知る必要があること、などを我々に示したものと考えられる。今回のシンポジウムでは、この分野をこれまで先導されてこられた専門家も交えてこのような点を考察し、今後の新たなNPPVによる心不全治療の基礎を固め、更にはASVを含むNPPV治療の今後の方向性を示せればと思う。

心不全は、循環器疾患の共通・終末像であり、その予後改善には、原因疾患の治療に加えて、心不全自体の治療が必要である。近年は、負荷軽減療法に加えて、β遮断薬、レニン・アンギオテンシン阻害薬など神経体液因子調整薬が出現して、その予後は改善傾向にあるが、それでもその5年生存率は50％と極めて悪いため、新しい心不全治療薬の開発が強く望まれる。心臓は、前負荷、後負荷、心収縮性、心拍数によりその挙動が規定され、更に神経体液因子により生じる心臓リモデリングが、心臓自体に変化をもたらすことが知られており、各因子の障害を取り除くコンセプトで薬物治療が開発されてきた。しかしながら、ミトコンドリア、SR/ER、ゴルジ体、核など心筋細胞構造物の障害、細胞内シグナル伝達異常、アポトーシス・オートファジー、酸化ストレスなどの観点からの創薬は十分ではない。また、次世代シークエンス技術を用いたゲノム創薬、臨床ビッグデータから導出されたリポジショニングによる創薬など、新しい薬物療法のシーズはまだまだあると思われる。そこでこのシンポジウムにおいては、アカデミア発の新しい創薬の展望を取り上げて、ディスカッションしたい。とくに、新規な方法論、創薬コンセプト、臨床研究の枠組みなどについて会員諸氏のご発表を期待する。

わが国において植込み型補助人工心臓（iVAD）が移植への橋渡しとして保険償還されるようになって5年が経過しようとしている。すでに450例を越える装着が行われ、2年生存率90%と米国INTERMACSを遙かに凌ぐ優れた成績である。米国ではHeartMate IIがDT適応となった2010年1月以来、DT目的でのiVAD装着が爆発的な勢いで増加し、現在では全体の50%に迫りつつある。移植適応外の理由としては、年齢、肺高血圧、肥満、腎機能障害などが主なものである。5年以上の連続補助を受けている患者は600人（約3%）となった。2年補助が目安と考えられてきたDT治療はデバイスの進歩、患者管理の改善に伴ってさらに長期の補助が期待できる時代に入りつつある。さて、DT治療をわが国で開始するに当たり、米国の医療システムとの違いを十分に検討しておく必要がある。現在、DT研究会が中心となってDT治療にまつわる諸問題の解決に向けて検討を行っている。検討事項は、わが国における最適のDT治療適応、通常の死としての脳死の受容、デバイス治療中止の倫理的問題、DT治療を支える社会的インフラの整備など多岐に渡っている。2016年にはわが国でもDT治療の治験が開始されようとしている。承認後には、必ずや世界をリードする遠隔成績が出るであろう。DT治療が重症心不全治療としてわが国にしっかりと根付いていくためにこれから何をすべきか、本シンポジウムで考えてみたい。

二次性心筋症は、特定の原因に伴って起きる心筋障害を特徴とする疾患群であり、通常、他臓器の障害を伴うが心臓のみに所見が見られる場合も多い。心アミロイドーシスは、心臓にアミロイドが沈着することにより心機能障害を来たす疾患である。心ファブリー病はα-galactosidase A酵素活性低下に起因し心肥大を認めるが、酵素補充療法により治療効果が期待される。心サルコイドーシスは心不全の重症化もしばしばみられるが、ステロイド薬により短期的な改善効果は高い。その他に、アルコール性心筋症、周産期心筋症なども重要な疾患として挙げられる。これらの疾患は症状や所見に特異的なものが見られないことも多いが、早期治療により症状の改善が期待できるため、病態の早期診断が非常に重要となる。近年の遺伝子解析研究などにより心筋症の病態生理は新たな展開が見られ、診断や予後予測に有用な多くのバイオマーカーが提唱されている。また、MRIやPETをはじめとした画像診断法の飛躍的な進歩により、心筋組織性状、血流評価や代謝情報など従来では十分把握できなかった病態についても診断が可能となっている。本シンポジウムでは、二次性心筋症診断に関わる最新の知見を発表して頂くと共に、診断法の新たな展望や問題点についても論議したい。

薬物溶出性ステント(DES)を用いたPCIが実施されるようなって以来、超遅発性ステント血栓症は大きな問題であるが、一方では2剤抗血小板療法(DAPT)による出血性合併症や高コストも同様に大きな問題として認識されるようになってきた。このため、第2世代DESを用いたPCI後のDAPT期間については短縮されるような傾向であった。ところが2014年にDAPT試験の結果報告があり、DAPTを長期間投与した方が心血管事故が少なくなることが示された。このため抗血小板薬の長期間投与の是非だけでなく、血小板薬の種類や組み合わせ、抗凝固薬が必要な心房細動例への対応、CYP2C19への遺伝子多型の問題など、様々な議論が必要となってきている。
そこで本シンポジウムではこのような多岐にわたる問題点について、シンポジストの先生方に各々の立場から対応策を発表して頂いて議論する。

近年、多種多様な肺動脈性肺高血圧症（PAH）治療薬が開発され、欧州のガイドラインでもその併用療法が記載されるに至ったが、依然として治療のゴールは短期生命予後の改善に止まっている。一方、本邦の中心的医療機関においては、多剤併用をはじめとする、様々なPAH治療の試みが行われてきた結果、既に非常に良好な長期生命予後が得られている。慢性血栓塞栓性肺高血圧症においても、標準的治療である外科治療の対象とならない患者に対して、我が国ではカテーテル治療が長足の進歩を遂げてきており、諸外国の状況とは異なる様相を呈している。これらの治療は各国の保険適応の問題などから、直ちに世界中で同様な状況となることが困難な場合も多いと考えられる、しかし、少なくとも既に一部は海外においても受け入れられつつあり、今後も日本から世界に向けて発信され続けていくべきものであろう。今回のシンポジウムでは、日本発で世界の治療を変容し得る肺高血圧診療の最先端、またその海外におけるインパクトを論じていただきたい。

冠動脈プラークイメージングの近年の進歩は目覚ましく、冠動脈インターベンションのガイドとしての有用性だけでなく、それらを用いた冠動脈病変の病態診断や予後予測、薬剤効果判定などの報告が数多くなされている。また、画像の再構成技術の進歩に伴って、診断価値の高い3次元・4次元画像や複数の診断法を融合した複合画像・動画を容易に作ることも可能となってきている。血管内超音波（IVUS）では、高周波（60MHz）を用いたhigh-definition IVUSが開発され、光干渉断層法（OCT）に近い軸方向の解像度を得ることができ、angio-co-registrationや3次元画像の改良・動脈硬化組織のカラー表示法の開発などによりOCTの機能向上が期待されている。複数の画像診断法を統合した融合画像診断装置の開発も急速に進歩し、近赤外線スペクトロスコピーを用いて血管壁脂質成分を表示できるnear infrared spectroscopy (NIRS)所見をIVUS画像と同時に表示し、脂質成分の空間分布情報を知るNIRS-IVUSの臨床応用が期待されている。さらには、IVUSの深達度とOCTの解像度という両者の長所を生かしたIVUS-OCTカテーテルの開発やNIRSとOCTとを融合させたNIRS-OCTの研究・開発も進んでいる。非侵襲的検査法では、MSCTによる冠動脈病変評価は日常臨床使用となり、心筋シンチグラムとの複合画像も臨床応用されている。また、脆弱性プラークの検出法としてMSCTの陽性リモデリングをともなう低CT値プラーク所見やPETとの融合イメージングによるmolecular imagingやT1強調MRIによるhigh intensity plaque (HIP)の検出が注目されている。また、血管内イメージングと機能評価とのコンビネーション診断画像の発展も期待されており、MSCTからFFRを推定するCT-FFRや血管造影からFFRを推定するQFRの開発・臨床応用が報告されてきている。本講演ではプラークイメージングの現状と可能性を報告していただき、さらなる発展性に関して議論していただく予定である。

かつては長いデバイス・ラグが存在し、海外で使用される医療機器が我が国においては長く承認されないことがありました。しかし、最近ラグは短縮され機種によっては海外同時承認されることすら見受けられるようになりました。また、不整脈治療に関する心臓デバイスといえば、ペースメーカー、植込み型除細動器（ICD）、心室再同期療法（CRT）しかありませんでしたが、近年、それらを発展させ、新たなコンセプトを有する機器も出現してきました。ペースメーカー回路・電池・電極を一体化させたleadless pacemaker、ICDを植え込めない状況、あるいは治療効果や経過でICDが不要となる可能性を考えた着用型自動除細動器（WCD）、心腔内に電極を植え込まないsubcutaneous ICD、CRTのresponderを増加させるために考えられたadaptive CRTなどの新たな技術がそれにあたります。不整脈モニター機器においてもinsertable cardiac monitorの出現は、失神診断の大きな進歩となりました。また、心房細動の重大問題である脳血栓塞栓症の予防に関しても、左心耳を閉鎖することで抗凝固薬を内服せずとも血栓症を予防できる機器（Watchman、LARIAT）が開発されています（本邦未承認）。今回、それぞれのエキスパートの先生方にご参集いただき、その現状と今後の展望に関して論じていただきます。

重症下肢虚血（CLI）に対しての血行再建術は血管内治療（EVT）、外科的血行再建術が行われていますが、満足した結果が得られているわけではありません。
本邦における血行再建術の現状を踏まえて、新たに取り組んでいる治療を紹介いただき、今後の展望を議論したいと思います。

血管内イメージングは日本における独自の発展を遂げてきた。保険償還が可能であることから、一般的にPCI時に血管内超音波（IVUS）や光断層干渉法（OCT）による画像に基づいた治療プランに関する考察が日常的に行われている。これは諸外国と大きく異なる点であり、日本のPCIデータが諸外国に比べて良好である点はイメージングにあると考える方も存在するが、エビデンスは今のところない。
血管内イメージングは、通常病理解剖でしか得られない血管内の病理所見を生きたまま得ようとする試みである。もちろんイメージングデバイスがすべての病理所見を正確に表しているわけではない。IVUSやOCTでそれぞれ得意な深達度、特異な病理所見があり、一方でわからない点も存在する。できるだけ本物の病理像がどうなっているかを考えながらイメージング所見を解釈するのであるが、そのためには血管病理を理解していることは必要条件であろう。そのうえで、イメージング所見から、臨床応用へとさせていくのはPCIの効果と精度の改善に論理的に役立つ方法であるのは間違いないであろう。
本セッションでは、血管病理を冠インターベンションンに生かすために、血管病理のこと、イメージングにおける解釈、PCIのアウトカムの改善などについてビジュアルを重点的に行う。

TAVIは2013年に本邦で保険償還後、現在急速に普及しつつある大動脈弁狭窄症に対する新しい治療法である。適切な弁サイズやアプローチ選択は至適な結果を得るために大変重要なポイントである。本ビジュアルワークショップでは、大動脈弁の解剖と血行動態をいかにこの治療に役立てるかを目的に、スペシャリストの先生方に得意分野についてご講演をお願いする。

心不全は心臓ポンプ機能障害により全身に症状や所見を呈する症候群である。超高齢化社会を迎えるにあたり、心不全患者は急速に増加し社会の負担になることは間違いない。心不全患者は既存の治療が無効となる前に先手先手の対応を行うことがもっとも重要である。そのためには症状の軽い時に心筋保護効果のある薬物治療を十分に行い、適切な非薬物治療を施す必要がある。しかし、残念ながらこのような診療を行っても状態を改善できなくなった場合は、予後を改善するには心臓移植しかなく、多くの移植適応外症例はQOLの低い生活を余儀なくされるのが現状である。
このような現状を少しでも改善するにはどのようなことが必要だろうか。まず、症状が軽度であっても今後確実に増悪することを予測する画像診断が必要である。さらに、現在のアンジオテンシン変換酵素阻害薬、β遮断薬以外に早期から心筋保護を強化する薬物治療、心不全の進行を抑える侵襲度の低い非薬物療法、ドナーが不足している心臓移植を補う補助人工心臓、そして、重症末期心不全患者のQOLを少しでも改善する緩和的・チーム医療的サポートが挙げられよう。本セッションでは、これらの課題に関する最新トピックスを概説していただく。

高齢化に伴い、侵襲的治療を必要とする弁膜症は増加の一途をたどっている。かつては弁膜症の治療と言えば外科的弁置換術であったが、外科的弁形成術を始めとして経カテーテル治療など治療の選択肢も増えている。これらの弁膜症治療の進歩には、外科手技やカテーテルデバイスの進歩に加え、心エコーを始めとする画像診断の貢献が大きな役割を果たしている。本セッションでは、特に僧帽弁逆流と大動脈弁逆流に焦点をあて、その術前診断と外科治療について学んでいただくことを主旨とし、それぞれの分野のエキスパートの先生方に講演いただく。特に弁形成術の成功は、術者の経験と工夫によるところが大きく、エキスパートから学ぶことは大きい。また、術式決定とその成否は、内科側から術前にどのような情報を提供できるかにかかっており、内科側が知っておくべき知識もある。本セッションで学んだことを明日からの弁膜症診療に役立てていただければ幸いである。

最近の観察研究により、末梢血管疾患:の患者は他の部位の動脈硬化疾患（虚血性心疾患、脳血管疾患）を合併しやすく（約50%）、予後は虚血性心疾患患者やや脳血管疾患患者よりも不良であること、かつ跛行症状のない無症候性末梢血管疾患の予後もコントロール群と比較すると不良であることが明らかとなった。間欠性跛行のあるPAD患者の最高酸素摂取量は、同一年齢健常者の約50%であり、この運動耐容能の低下は日常生活での運動量の減少を招き、骨格筋のディコンディショニングと内蔵肥満を助長しインスリン抵抗性などを介して、全身の動脈硬化進展をさらに促進する。
運動療法、禁煙指導、減塩を含めた食事療法は、末梢血管疾患の土台となる治療方法であり、多職種チーム管理が必要である。このメディカルスタッフセッション2では、末梢血管疾患のチーム管理に関する最新のエビデンスをレビューし、先進的な試みを行っている事例を紹介してもらい、我が国の現状に則した最適な末梢血管疾患の多職種チームによる疾病管理プログラムについて検討する。末梢血管疾患患者の臨床背景と社会背景は個々の患者ごとにかなり異なるため、いろいろなパターンを想定して個々の患者に適したテーラーメイドの疾病管理プログラムについても討論する。

心不全患者の多くは高齢で多疾患有病者であり、複雑な病態への効果的な治療に加え、精神的、社会的支援が求められていることはいうまでもなく、心不全患者に対する包括的医療を実現するためには、心不全医療チームによる多職種連携が不可欠である。中でも、難治性心不全においては、移植医療や植込み型補助人工心臓をはじめとする補助循環の導入で生命予後やQuality of lifeは大きく改善する一方、このような高度医療の適用や選択の判断、今後の見通しやの最善の治療にもかかわらず迎える終末期についての説明や患者の意思決定支援、終末期の患者の苦痛緩和といった問題に直面しており、心不全医療チームの役割が問われている。さらに、高度医療が適応とならない末期患者への治療、ケアの構築も、チームで解決すべき喫緊の課題である。本セッションでは、心不全患者に対するチームアプローチについて、特に重症心不全に対する治療、ケア、心不全の終末期の意思決定支援、在宅における重症心不全患者の治療、ケアなど、難治性心不全患者を取り巻く様々な問題について、医師、看護師、理学療法士、薬剤師、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど、様々な職種の立場からご発言頂くとともに、職種を超えてどのように取り組むべきかを議論し、解決の糸口をともに探りたい。

地域医療、高齢化社会を支えるには医療資源を効率的に投入する必要がある。日本の医療は対面診療が基本であるが、患者が自宅に居ながらにして患者の状態を把握し必要な処置を必要なタイミングで提供できれば、患者、家族の負担も軽減し医療者側ひいては医療費の削減につながることが予想される。IT 化が進むにつれ、徐々に発展が期待される分野であり、新しい事業の参入も予想される。インフラ整備の広がりと共に、特に過疎地域などを中心に発展してきているが、循環器の分野においても、植込み型デバイスの遠隔モニタリング、心不全患者の遠隔診療、心電図の伝送システムなど様々な分野で遠隔医療が発展してきている。大規模研究にても、心不全入院の削減、イベントの早期発見、生命予後の改善など一部の分野で患者に対するメリットは証明されている。しかしながら、患者側には一定のメリットがある一方で、遠隔医療に対する診療報酬など実際にシステムとして成り立つところまでは洗練されていない。それ以外にも、個人情報、コスト、人員配置、安全性など様々な問題点も挙げられ、それぞれの事業を軌道に乗せるには多くの議論が必要と考えられる。このシンポジウムでは、主に循環器領域の様々な遠隔医療の可能性を検討する。

虚血性心疾患は、ライフスタイルの欧米化や高齢化が進む中で、その頻度が近年ますます増加している。急性心筋梗塞症の診療においては、冠動脈インターベンションによる再灌流療法が主流となり、診断と治療に迅速さが求められている。心筋梗塞に対する急性期治療が進歩し救命率が向上する一方で、心不全患者の増加も著しいものがある。エビデンスに基づいた標準的治療、多職種による集学的治療＝チーム医療　が求められる半面、高齢者・重症例では、専門的知識とともに個々の病態把握・臨床判断が重要となる。特に循環器集中治療においては覚醒した症例と向き合うことが多く、精神面や苦痛のケアにも配慮しなければならない局面も多い。本セッションでは、チーム医療の中でいかに個別的背景も考慮しながら　decision making（意思決定）を進めていくか　循環器集中治療に関わる現場の視点から議論を深めたい。

座長の言葉のテキストが入ります

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少子高齢化に伴う独居高齢者の増加、疾患の複雑化・慢性化など疾病構造の大きな変化が問題となっている。一方で、病床の減少、入院期間の短縮なども求められていることから、自分らしい暮らしを最期まで続けられるような地域包括ケアシステムの構築が急ピッチで進んできている。このような地域包括ケアにおいて、“心臓病＝命に直結”という強いイメージから苦手意識が浸透しており、循環器医療を地域から支える循環器専門クリニックの担う役割は非常に大きい。
本セッションにおいては、CARDIOLOGY CLINIC SESSIONと題して、循環器医療を地域から支える循環器専門クリニックの様々な取り組みをご紹介頂き、循環器領域における地域包括ケアの充実とともに、時代に合った臨床心臓病学の発展につながることが期待される。

在宅医療は地域における包括的かつ継続的な在宅医療の提供を目指すもので、地域の個々の医療機関に役割を分担し、「患者の自宅」という「病室」に対して一元的に提供されるものである。すなわち、在宅医療は在宅 医療を提供する病院、診療所、薬局、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどの医療・福祉機関やそこに従事する 多職種が連携し、医療と介護のサービスを包括的かつ継続的に提供することである。
現実に在宅医療は高齢化や医療財政、あるいは家族の要望などから着々と進んでいる。そういった現状のなかで循環器領域、特に心不全患者に対する在宅医療や地域包括ケアが注目されている。そこで本シンポジウムでは心不全領域における在宅医療における患者のニーズに応じた診療所と病院の役割分担、医療機関間や医療と介護の間の連携強化のあり方、より効果的・効率的な医療・介護サービス提供体制の現状と将来ビジョンについて議論する予定である。

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本邦では、高齢化が進み寿命と健康寿命の解離が社会的な問題となっている。加齢とともに、慢性疾患や様々なストレスが加わり、Disabilityの状態つまり要介護状態に陥る。この前段階として、筋力・筋量低下（サルコペニア）、活動性の低下、栄養障害、認知機能の低下、独居のような社会的問題など健康障害を起こしやすい脆弱な状態をフレイルと呼び、これらの要素それぞれが悪循環サイクル（Frailty Cycle）を形成し、要介護状態へと進展する。フレイルの概念には、適切な介入により再び健常な状態に戻る可能性が含まれている。したがって、フレイルを適切に診断、評価し、適切かつ早期に介入することは極めて重要と考えられるが、これらはまだ一定の基準が示されていない。
生活習慣病を基礎として発症する循環器疾患、特に動脈硬化性疾患や心不全の病態はフレイル状態を導きあるいはその進展速度を高める。一方で、フレイルは冠動脈疾患や心不全の発症や予後に影響を与える因子でもある。これらの心血管疾患の治療において、多職種による包括的心臓リハビリテーション（心リハ）の有効性は既に周知されているが、フレイルの克服にも心リハは極めて重要かつ標準的な治療法と考えられる。本セッションでは、様々な職種から多角的に見たフレイルの診断および介入方法について議論したい。

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診療に苦慮した症例や希少症例を皆で共有し振り返ることで、新たな発見があったり、見落としていた点に気づいたりすることが多くあります。本企画では、経験年数や専門分野・職種が異なる先生方にご参加いただき、熱いディスカッションをしていただくことで、一人では思い至らないような臨床心臓病の奥の深さを理解し、より高い臨床レベルに到達するための一助となることを期待しています。
前年同様、関東・東海チームと関西チームのFJCCの司会のもと、実際に経験された2症例について、論点を絞りつつ各チーム3名のコメンテーターと共に時間の限りディスカッションしていただきます。いくつかの重要なポイントでは聴講の先生方にもディスカッションに参加していただく予定です。さらに基本知識を整理できるよう、各症例の最後にエキスパートの先生にショートレクチャーをお願いしております。多くの皆様にご参加をお願いしますとともに、臨床の醍醐味、ケースカンファレンスの面白さを共有していただければ幸いです。

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今やシミュレーション技術は、いろんな分野で活用されているが、若いドクターや医学生達が心臓病患者シミュレータ「イチロー」を使った研修を行い、繰り返し各疾患の身体所見の診かたを学び、ベッドサイド診察手技を身に付ければ、実際の臨床現場でも迷う事はない。その原点はここにあった。
1969年、アメリカ航空宇宙局のアポロ11号が月面に着陸した。そして1970年、アポロ13号が打ち上げ後のトラブルに見舞われながらも無事帰還できたのは、危機管理と乗組員達がシミュレーションで培った技術と豊富な経験に基づく自信で難局を乗り切ったからであった。2016年の現在、国際宇宙ステーションには世界中の科学者たちが挑戦を続けている。
心臓病患者シミュレータ「イチロー」は正にシミュレーション技術の結晶である。研修に参加される方々が正しく、視診、触診、そして聴診という身体診察の基本手技を修得出来れば、「アポロ計画」を成功させた人々の様に「臨床の達人」となれるのだ。

心臓病診察の醍醐味は、実際の患者さんを前にして、主訴から始まる病歴を基に患者の訴えを詳細に分析し病態の根源を推測。さらに視診、触診、聴診から得られた身体所見により病態の把握をさらに精緻なものとして仮説を立て、鑑別診断をする。そして胸部X線、心電図、心臓超音波検査などの検査所見により診断を確定していくプロセスを体験することにあります。つまり伝統的な心臓診察の実践こそが臨床医学の最も興味深いところといえます。臨床教育の現場では、このプロセスを実際の患者さんを前にして複数の医師で共有することが伝統となっていました。しかし患者意識の変化と患者数の激増、医療制度の変革、さらに種々の高度診断機器の登場により、伝統的な診察法とベッドサイド教育の実践が大変困難となっています。時間のかかる詳細な病歴聴取や綿密な身体診察が日常の診療現場から消え去ろうとしています。しかしどんなに医療が進歩しても、医療が人を対象とした人間科学である以上、伝統的な診察の重要性が無くなるものではなく、むしろ複雑で高度化した社会であるが故に、より人の機微に触れるような診察法が重要になると思われます。今回、心臓病患者シミュレータを使用し、現在の臨床現場では実践が困難となったベッドサイド教育を再現したいと思います。実際の症例を提示し、その身体所見を心臓病患者シミュレータで再現します。さらに胸部X線、心電図、心臓超音波検査と検査をすすめながら、考えられうる病態について参加者とともに考えたいと思います。

「聴診器で診察してもらったことがない」という訴えを患者さんからよく聞きます。先生はコンピュータの画面ばかりみている。話をきいてくれない。心臓の音も聴いてくれない。これは心エコー、CT、MRI検査による診断に頼り切っている証拠です。患者さんから信頼されるためには、視診、触診、聴診によって患者を診るというベッドサイド診察手技を重視することが大切です。しかし心臓病患者さんを前に診察手技のトレーニングを繰り返して行うことは困難です。本セッションは心臓病患者シミュレータ「イチロー」を用いてベッドサイドの診察手技を繰り返し納得できるまで学んでいただく実習プログラムです。
実習では視診、触診、聴診の順に、視診では頸静脈波形を観察、触診では頸動脈、心尖拍動の触知、聴診では正常心音S1、S2から過剰心音S3、S4までを理解し、雑音の聴取では収縮期早期、中期、後期の聴きわけが出来るようになることが目標です。

20世紀はレントゲンによるＸ線の発見で幕を開け、医学においての激動の世紀となった。その渦中にあって、多くのエポックメーキングな発明、発見の中でもひときわ偉大な業績「人類への輝かしい貢献」と評価されるのが「スタチンの発見と治療への応用」ある。
虚血性心臓病が動脈硬化を基調として発症し、致命的な病態に至る重篤な疾病であることは古くから周知されていた。しかし動脈硬化の発現機序は極めて複雑かつ多様な因子が関与し、その解明は容易ならざるものであり、多くの時間と苦難の道のりを辿らねばならなかった。コレステロール合成阻害薬として動脈硬化性血管障害治療の主役である「スタチン」は、現在世界中で数億人以上の患者に使われ、大きな貢献を続けていることは衆人の等しく認めているところであるが、その基となる「コンパクチン」（ML-236B）を世界で最初に発見したのは、我が遠藤章先生である。後に「LDL受容体」の研究で、ノーベル医学生理学賞を受賞した米国のブラウンとゴールドスタインも、「遠藤章博士がスタチン研究の歴史を開いた」と述べている。
今回の本フォーラムは、その遠藤章先生に演者をお願いし、スタチン開発の「苦難の道程」を話しいただき、一つの業績が人類を救う現実を平山篤志先生のお話と併せお聴きすることで、今後我々が進むべき道程として学び、糧にしたいと企画した。多くの方のご参加を期待したい。